BLOG「逗子桜山O邸リノベーション「2つの個性が共生する家」」
第1回 2つの入り口、2つのキッチン
逗子の海へ向かって市街地をゆったりと流れる田越川を渡ると、そこは桜山という住所。太古の昔は古墳だったとも言われるこんもりとした山の周りに、人々の暮らしが広がっています。
その一角に、ちょっと変わった古家が出ました。
一見すると平屋なのですが、奥に2階が見えます。
この家、どうやら元々は古い平屋だった所へ、後から2階建ての建物を増築したようなんです。しかも2階建ての部分にも出入り口があり、2世帯住宅のようなつくりになっています。
中に入ってみると、元々の平屋の部分はこんな感じ。床の間のある座敷を囲むように縁側があり、日本の伝統的な和室のしつらいそのものです。古い建具の格子や細工は、時を経た今でも狂いなく整然としていて、古き良き時代の日本のものづくりのレベルの高さを伺わせます。
そんな和室の他に、平屋部分には洋風の応接間らしき部屋もあるんです。おそらく、元の平屋より新しい年代に増改築されたのでしょう。レトロなデザインの照明が独特の味を出してますね!
そして、この家にはキッチンが2カ所ありました!平屋の方に1カ所と、2階建て部分の1階にも1カ所です。
持ち主の家族状況の変化に応じて、少しづつ改良を加えながら住んできた家なんですね。
もしかすると、途中で全部壊して建て替えるという選択肢だってあったかもしれないけれど、こんなふうに誰かが手を入れながら大事にしてきた温かみを感じられるのが、古い物件の良い所。
とはいえ、かなり個性的な物件です。誰にとっても無難、というものではありません。
ところが…!
この家にピッタリ!というお客さまがいらっしゃったのです。それが、この物語の施主であるOさんご一家。
お父さんお母さんと、息子さんご夫婦とが一緒に住める2世帯住宅として、レトロな味わいのあるこの家を購入することに決めました。
この家なら、逗子駅前へのアクセスも良いし、平屋部分があるのでお年を召しても生活しやすいですし、お互いに近くにいながらもプライバシーを確保できそうです。
こうして、2世帯住宅の古家リノベーションが始まることになりました!
第2回 プランB
逗子市桜山でスタートした、2世帯住宅の古家リノベーション。元は平屋だった建物に、2階建ての家が増築され、他にもいろいろと改修が施されてきたこの家をリノベーションするにあたって、最も重要となるのが「構造の補強」です。
1つの構造だったものに後から付け加えたり削ったりしていくと、構造の軸や重心が影響を受けることが考えられます。それに加えてこの物件の場合は、古い部分で築後60年は経っていると見られ、年月によるダメージも想像されます。
見た目の仕上げではどうにもならない、家の根本的な安全性や断熱などの性能に関わる所こそ、古家リノベーションではしっかりと取り組まなければなりません。
そこでOさんご一家は今回、弊社がご用意している、このような特に古い物件をリノベーションする際に利用できる、専門家による調査&アドバイスのサービスを採用してくださいました。
このサービスは、物件の購入前と、購入後のリノベーション前に、中古住宅調査の専門家による建物の調査と、それに基づいた補強アドバイスが受けられるというものです。
購入前には、やはり予算内で安全に住めるように直せる物件なのかどうかが気になりますよね。エンジョイワークスのサービスでは、購入前に専門家に物件を調べてもらい、まずは購入の意志決定の参考となるような情報を得ることができます。
そして実際に購入した後、今度は効果的な工事を行うために、より詳細な構造のチェックと補強方法のアドバイスを受けるという2段構えの内容となっています。
*エンジョイワークスの「中古戸建リノベーションパック」の詳細はこちら
古家リノベーションで大切なのは「バランス」です。
どういうことかと言うと、いわゆる「古民家」に代表されるような味わい深い物件は、構造・性能の補修にかなりのコストがかかることが多く、例えば耐震基準適合証明書などを受けられるレベルに立て直そうとするとそれで予算を使い切ってしまったり、足りないぐらいになる可能性が高いのです。
このような場合には、証明書には固執しないで、実際に安全・快適に住めるレベルにすることをゴールに取り組んだ方が、限りある予算を間取り変更や仕上げにも回すことができ、結果、思い描いていたライフスタイルの実現が可能になってきます。
弊社では、今までのリノベーション案件の経験から、比較的新しい時代の物件(概ね新耐震基準が施行された1981年・昭和56年築以降)と、そうではないもっと古い物件とで、サービスプランを2種類用意しています。
今回のO邸の場合は、後者、Bプランで取り組むことになりました。
*エンジョイワークスの「中古戸建リノベーションパック」の詳細はこちら
さて、引き渡しが済み、物件が正式にOさんご一家のものとなった後、中古住宅調査の専門家 小柳理恵さんと、実際に施工する工務店の代表 本田さんは、リノベーションのための本格調査を行いました。
お二人とも、多くの中古住宅リノベーションの現場を手がけてきたプロフェッショナルです。
経験や勘だけでなく、机上の理論だけでもなく、その両方で物件を見極めることができる凄腕の持ち主!
*建築士 小柳理恵さん/和温スタジオ
*工務店代表 本田義一さん/ワイズホーム
このように家の一部を破壊してみないと分からないこともあります。それは物件が施主の所有物になった後でしかできないこと。
家中をくまなく調査したこの日、得た情報を持ち帰って、改修プランを練ります。構造補強の部分は小柳さんや本田さんを中心に。そして、Oさんご一家が実現したいライフスタイルを間取りや仕上げに表現していく部分は弊社設計士が。
どんな家になるのでしょうか?
楽しみです!
第3回 古い物を受け継ぎ、次の時代へ生かすということ
逗子の桜山で進行中の、古い2世帯住宅のリノベーション。いよいよ解体工事が本格化しております。
平屋部分の天井を取り払い、小屋裏が現れました。
自然の木の表情をそのまま残した梁に味わいがありますね~!
それに対して整然と組まれた垂木や柱が美しいです。古い日本家屋のこういう精緻な感じって、やはり素晴らしい。
床板を剥がすと、床の下地である「根太」が現れます。掘りごたつの跡がありますね!
解体が進むと、どんどん構造の核心が露わになってきます。その時点で再び調査に入り、改修プランと実際の現場を照らし合わせながら、より良い改修へと精度を高めていきます。
我々のリノベーションで大切にしているのは、リノベーション後に、また長く住んでもらえるような良好な「箱」へと改修することです。そのために、目に見えて変化がわかる間取り変更や仕上げはもちろんですが、目に見えない躯体の強度や断熱などの性能を高めることを最重要に考えます。それが結果的に、古い建物の寿命を延ばし、未来において良好なストック・資産になる可能性を高める、つまりは再び長く愛される家になると考えているからです。
第4回 父と息子
逗子の田越川にほど近い桜山で始まった、2世帯居住できる古家のリノベーション。ほぼ骨組みにまで解体された現場では、新しくコンクリートの基礎が打たれました。
今までは剥き出しの土の上に束石を並べて、その上に木の柱が立っているという、典型的な古い日本家屋の基礎だったのですが、束石に接する柱にもダメージがあったり、土から上がってくる湿気にも対処したいということで、1階部分全域の基礎を打ち直しました。
今回のO邸では、建物の状態やこれからの2世帯のライフスタイルなどを鑑みて、ほぼフルリノベーションに近い改修を行います。
ただし、忘れてはならないのが、「この建物の古い味わいをどのように活かすか」ということ。
元々Oさん一家がこの家を選んだ理由も、ピカピカの新品にはないレトロな雰囲気に惹かれてのことです。安全性や性能向上のために大幅に手を入れる必要があることは不動の事実ですが、であればどんな工夫ができるのか?という所に弊社設計士も考えを巡らせました。
その結果、解体して現れた素晴らしい小屋裏の梁や、特徴的な造作の天窓など、この家の雰囲気を凝縮した「エッセンス」にあたるような部分を、わざと見せたり、残してそのまま使ったりしてみようということになりました。
実際の建物が無くなったり変わったりしても、人の心には面影や印象が残っているものです。それをふっと思い出せるスイッチになるような所をうまく活かすことにしました。
元々は庭に面した縁側に設置されていた、大きなガラスの入った木枠の建具も、リノベーションでは室内の建具に使うことが決まりました。
「こういう古い物を活かしたいっていうのはね、どっちかっていうと息子の趣味」
と施主Oさん。
このロケーションも、1年ほど前から逗子に移り住んだ息子さんご夫妻のたってのご希望だったようです。
この日は息子さんご夫妻も加わって、現地で仕上げや設備の打ち合わせをしました。
都内でワインとイタリア料理のお店をやっているという息子さん、どんな家にしたいのか、やはりビジョンがあるようです。
自分たちのスペースとお父さんお母さんのスペース、両方が素敵な空間になるように、仕上げのディテールをしっかりと打ち合わせしました。
これからの変化が楽しみですね!
随時、進捗をレポートしていきます。
第5回 家の姿勢矯正
ゆったりとカーブを描きながら逗子市街を流れ、海へ注ぐ田越川。河岸の町並みを横目に川沿いを散歩し、逗子海岸の砂浜へ出て光る海と富士山を眺める、なんていうことが当たり前の日課になるのを待ちわびながら。
桜山の山裾にあるO邸では、2世帯住宅のフルリノベーション工事が進行中です。
平屋の建物と、過去にそこへ増築されたと見られる2階建ての建物がドッキングしたユニークな家。工事の進捗状況としては、必要な解体が済み、躯体補強の工程に入っています。
家の外には、出番を待つ新しいサッシたち。建て具を入れる箇所の補修が済んでから取り付けるのです。
家の中では、柱や梁、大引といった、建物を支える骨格の部分の補修・補強工事の真っ最中!
先日、中古住宅調査&構造補強の専門家である小柳理恵さんと、今回現場の施工に当たっている工務店ワイズホームの本田さんによって、念入りに躯体の調査が行われ、補強プランが作られました。それに基づいての工事です。
*構造補強を含め、中古戸建リノベーションにあたって利用できるサービスを見る
写真の向かって右の柱にご注目!古い柱に新しい木材を添え木するようにして、補強しているのが分かります。そこへさらに斜めに筋交いを入れて強度を高めています。
古い家の柱は、木自体が傷んでボロボロになっていることもあれば、長年の荷重によって軸が傾いて歪んでいることもあります。
柱1本1本に対して、垂直かどうかを機器で測り、歪んでいれば真っ直ぐにして、それがぐらつかないように新しい木材を添えます。木自体の傷みがひどい場合は、新しい柱へと丸っと取り替える場合もあります。
その作業をこの家の柱の数だけ繰り返していくのです。
1本の柱を真っ直ぐにすると、その隣や周りの柱にも微妙に影響が及びますので、全体感も鑑みながらバランスを取っていかねばなりません。
まるで、家の「整体」みたいですね!
というわけで、実は古家リノベーションは、この「構造補強」の工程に非常に時間とお金がかかるのです。この先また数十年住み繋げるだけの、丈夫な「箱」に整えるためには、この工程を惜しむわけにはいきません。
逆に言うと、ここさえ乗り越えれば、目に見える仕上げ工事の方はスピード感を持って進行していきます。
今が正念場!
第6回 サッシが入りました!
逗子の田越川にほど近い場所で進行中の、2世帯住宅フルリノベーションO邸!
古家を解体し、基礎を打ち直し、躯体の構造補強工事が続いています。
柱を1本ずつ測りながら垂直にし、補強のための材を添えていくという、古家リノベーションの要となる作業。たくさんある柱の数だけひたすら行っていくので、やはり時間を要します。
しかし、そろそろゴールが見えてきました!
建具が納まる枠の部分も補強し終わり、ついにサッシがセットされました!
「古い家は寒い!」
というのは、やはり床下や壁に断熱材が入っていないことと、サッシの断熱性・機密性が低いことが要因です。
逆に言うと、リノベーションでそこを直してあげれば、建物の味わいは残しながらも、快適性はかなりUPします。
O邸でも、サッシは断熱性の高い複層ガラスを採用しました。
そして、こちらの布団のようなものは断熱材。
壁や小屋裏にセットされるのを待っております。
あったかそうですね~!
うず高く積まれたこちらは、お父さんお母さんが住む部分の床材です。ホワイトのオイルステインで予め塗ってあるアッシュの材。一番時を過ごすであろうダイニングルームを中心に張る予定です。
構造補強の様子がよくわかる部分を発見!
元の柱と梁に添え木をするように材を足して強度をUPさせています。
接合部には必要であれば金物を用いて、さらに頑強に。
一方、天窓のある小屋裏付近でも、補強工事が始まりました。
さて、ここからどうなっていくんでしょう?
楽しみです!
第7回 屋根の中に、屋根がある?
天窓に思いっきり寄り!
からの、逗子桜山O邸です。
元は平屋に2階建ての建物が増築されていたユニークな古家を、父母世帯と息子さん世帯が共に暮らす二世帯住居としてリノベーション中のO邸。
長らくの構造補強工事がついに完了したとの知らせを受け、現場に駆けつけました。
そこで見たものは…
屋根の下に、もう一つの屋根?
家の中に、家?
いくら構造補強と言っても、家の中に家を作るなんて発想があったのでしょうか!
「いやいや、これは天井ですよ」
と弊社設計士。
解体時、天井を剥がしてみると、この家の古い梁が現れました。
それは製材された材木というよりも、自然木をそのまま使ったような、なんとも表情豊かな梁。
それを見た施主のOさんは、この家の思い出としてこの梁を見える状態にしておきたいと要望されました。
そこで、この梁を見せながら天井を仕上げるために、元の天井のもっと上の方に新たな天井を張ることにしたのです。ちょっと台形のような形に組まれているのが、新しい天井の垂木。ここに板を張るわけです。変形の勾配天井といったところでしょうか。
一方、息子さんご夫妻が住む子世帯部分には、フローリングが張られています。
優しい柔らかい風合いの桜の木。
この家の完成は、ちょうど桜の季節を予定しています。
それまであと1ヶ月。
ここから仕上げに向かって、スピードが上がります。
第8回 父世帯の仕上がり
逗子の田越川のほとりで、元は平屋だった建物に2階建ての建物が増築された古い家を、父世帯&息子世帯の2世帯住居へとリノベーションしております。
桜の咲く頃に施主Oさまへお引渡し予定のため、目下かなりのラストスパートにて施工中!
弊社設計士によると、お父さん世帯と息子さん世帯では、住まいへの考え方やお好みも大きく違うそうです。2つの個性が共存するO邸、果たしてどのような家に生まれ変わるのでしょうか?
まずは、お父さん世帯の方を見てみましょう。
お父さん世帯の居住エリアは、平屋部分になります。写真の部屋は、家族が最も長い時間を過ごすであろうリビング。手を入れる前は古い日本家屋によくある低い天井で、家全体がなんとなく薄暗い感じがしたのですが、その天井をいったん取り払って味わい深い古い梁を露わにし、元の天井よりも高い位置に新しい天井板を張りました。ちょっと変形の勾配天井といった趣です。白に近いグレーで室内を塗装したことにより、既存の天窓からの光が空間全体に行き届き、開放感のある部屋へと変身しました!
古い梁もより映えますね~!
そしてこちらはリビングのお隣のお父さんの書斎スペース。本が好きなOさんは、現在住んでいる家にも蔵書がたくさんあります。その書棚ごと移設したいということで、高さを変えられる可動棚をバックボードごと一足お先に引越しさせました。本棚の前には琉球畳のスペースができます。壁はクロスで仕上げる予定。露出した古家の小屋裏が、良いアクセントになっています。
そしてこちらは洗面所などの水回りスペース。Oさんのご希望で、収納棚や洗面台にアクセントカラーとして朱赤を効かせました。気持ちがピッと元気になりそう!
もともとあった模様ガラスの内窓もそのまま生かしました。このような光を透過する内窓があると、空間の広がりが違います。試しに写真のこの内窓を手で覆ってみると、体感が変わるのが分かりますよ!
お父さん世帯の方は、このようにすっきりと上品に整った、清潔感のある室内になってきました。茶色が多く、天井が低かった元の日本家屋に比べると、かなりモダンな印象になりましたね。
次回は息子さん世帯の居住エリアをクローズアップ!
第9回 【最終回】息子世帯の住まいの価値観
逗子の桜山で、古家を2世帯住宅にリノベーション中のOさんご一家。念入りな躯体の補強工事も無事に完了し、現在は仕上げに向けて内装工事が急ピッチで進められています。
もともとこの家は、古い平屋に2階建てが増築されたユニークな物件でした。約1年ほど前に逗子の地に移住した息子さんご夫婦がこの物件を気に入り、ご両親と暮らす二世帯住宅へリノベーションすることになりました。
工事の初期の段階から、お父さんであるOさんは「二世帯と言っても、居住空間はお互いのプライベートのために、しっかり分けるつもり」とおっしゃっていました。
「こういう古い物が好きっていうのも、どっちかっていうと息子の趣味なんですよ。私たちとはその辺の感覚も少し違うようです」
そんな息子さん世帯の居住エリアを拝見してみましょう!
息子さん世帯は2階建ての建物の方に住みます。
こちらはその1階にあるキッチン部分。コンパクトなサイズで造作しました。壁には息子さんのご要望でレンガをアクセントに。
東京でイタリアンレストランを営んでいる息子さん、家の各所にもやはりこだわりがあるようです。
こちらは洗面台。シンプルですが、なんとなく懐かしいようなこのフォルムが可愛い!
1階の天井は、天井板を張らない「あらわし」という手法で、天井高も以前より高くなりました。この古い板が見えている感じがノスタルジックでいいですね~。床にはサクラの木のフローリングを張りました。そして、この部屋を含む室内の壁はすべて息子さん夫婦自ら塗装する予定です。
お父さんたちは「家は完成してから引渡してもらうもの。その方が安心」というお考えですが、息子さんたちは「自分たちでDIYする余地があるのも嬉しい価値の一つ。自分たちでできる所は手を動かして、自分たちらしい家にしたい。それでこそ愛着がわく」という価値観です。
「家」に対する考え方が、時代と共に変化してきているのを感じますね。
そしてこちらは息子さん世帯の2階。
サッシこそ断熱性の高いものに取り替えましたが、モスグリーンの土壁も、天井板も、実は元のまま。ここに新しい畳を入れて、このまま使いたいとのご要望です。新しい物件にはないこの味が気に入っているんですね。
最後に外壁にも手が加えられるそうです。
どんな外観に変化するのか、仕上りが待ち遠しい!