BLOG「小坪W邸「陽だまり平屋リノベーション」」
第1回 小坪の丘の陽だまり平屋
「家を住み替えても、また小坪に住みたいって思ったんですよ」
とおっしゃるのは、この物語の主人公W夫妻の奥さまです。
W夫妻が相模湾を見下ろすホテルのような瀟洒なマンションに越してきたのは約6年前。世田谷のマンションを売却し、海辺で暮らすことを選んだお二人には、お話を聴くと何だか「不動産運」とでも呼ぶべきものがありそうです。
「その年のGWに小坪のマンションを見て、海のある環境と部屋のきれいさに一目惚れして即座に買い替えを決めました。東京のマンションもスムーズに売れましたし、何より幸運だったのは、入居当初は木が繁っていて部屋からは海が見えなかったんですけど、台風の日にその木が倒れてオーシャンビューの部屋に変わったことです!」
そんなラッキーなことがあるんですね!
おかげでそのマンションの部屋からは、バルコニーやリビングはもちろんのこと、キッチンで料理をしているときも、パウダールームでお化粧をしているときも、部屋のいたる所から海が見えるようになったのです。
北欧やヴィンテージの家具が好きなW夫妻、ダイニングテーブルやソファなどお気に入りのものを揃えて、愛犬のトイプードルと共に洗練されたマンションでの暮らしを楽しんでいました。
が、5年を過ぎた頃、また家を住み替えたいと思い始めたのです。海と空に映えるモダンな外観、エントランスから続くロビーはリゾートホテルのよう、部屋もオーシャンビューだし設備も内装もスタイリッシュで、みんなが羨むほど素敵なマンションなのに一体なぜ?
「どうしても、一戸建ての夢をあきらめられなくて」
今回が3軒目となる住宅の購入。東京のマンションも、小坪のマンションも、一目見て一発で決めたというすごい決断力のW夫妻が次に選んだのは…
小坪の団地の中腹にある、こぢんまりした古い平屋でした。
小坪以外のエリアに移るという選択肢はなかったのかと尋ねてみると、
「小坪は鎌倉にも逗子にも出やすいのが良いんですよ。私の休日は、愛犬も連れて行ける材木座のカフェ ミルコーヒーで読書したり、マリーナを散歩したり、ロンハーマンに寄ったり。旦那も一人休みの時は、めしやっちゃんやゆうき食堂で美味しい魚を食べたり。近所の八百屋や肉屋といった個人商店もよく利用していますし、愛犬のかかりつけの病院も近いし。そんなライフスタイルはこれからも続けていきたいんです」
なるほど、変えたい部分と、変えたくない部分。小坪に暮らして得たリアルな目線での選択だったのですね。それを自分たち自身が知っておくことも、良い不動産選びには欠かせないポイントです。
さて、その平屋を見てみると、和室が連なった昔ながらの造り、青い瓦屋根、剥げかけた外壁のペンキ、駐車場もないし、「味がある」とは言えそうですが、白亜のリゾートホテルからいきなりの「昭和」です。どこからかお豆腐屋さんのラッパの音でも聞こえてきそうではありませんか。
決断の早いW夫妻のこと、当然この家も早々に決めたわけですが、その決め手となったのは?
「この家がちょうどタイミング良く出たんです。それで見に行ってみたら、雛壇の角地で東から南が抜けていて、風通しと日当たりがすごく良い。平屋と庭の感じも可愛かったし、家が密集していなくて道路やお向かいとコンニチハしない所も高ポイントでした」
言われてみればこの物件は、地形上ひときわ高い擁壁の上の角地に南向きに建っており、道路を挟んだ東が広い駐車場ということもあって、平屋でありながらぐるりと周囲を見渡すような開放感があります。
W夫妻がまず確認したのは、塀を壊して駐車場を作るのにどのくらいコストがかかるのか。その見積額が納得できるものだったため、即座に購入を決めました。
この辺り、不動産の勘所を押さえてますね〜!見習いたいものです。
そうしてW夫妻の所有となったこの平屋、ビフォーの室内を見てみましょう!
勝手口から入れる台所は昔ながらの造り。この給湯器、懐かしい!お味噌汁の仕上げに入れるネギを刻むお母さんの背中と、ご飯を待つ家族。そんな絵が浮かびます。昭和〜。
こちらはいちばん西側の和室。土壁っぽい黄土色と格子の建具、この照明!またまた昭和〜。平成生まれの人たちには逆に新しかったりするんでしょうか?
洗面所はそっけないくらいのシンプルなシンクに、水色の多孔ボードが妙に可愛い。お風呂も剥き出しのセメントの土間と木枠の磨りガラスが良い雰囲気ではありますが…。
ハイセンスなW夫妻、この昭和レトロな感じをまんま引き継いで住む、という感覚ではなさそうです。
「小坪のマンションに越した時に、かなり家具類を買い替えたんです。とても気に入っているから、それが映える内装にしたいですね。外観は、マンション暮らしだと気にしたことがなかったのですが、吉村順三設計の伊豆高原の家が好みで!それを参考にしてもらおうと思っています」
都心のマンションから、湘南のマンション、そして3軒目に辿り着いた家。ライフステージに合わせて変わる心境や身の回りに合わせて、軽やかに住み替えていくW夫妻の不動産との付き合い方は、「家」に対する重たい固定観念を爽やかに拭い去ってくれるようです。
南からの陽射しがたっぷりと降り注ぐ、小坪の丘の可愛らしいこの平屋がどんな風に変身するのでしょうか。引き続き、進捗をレポートします!
第2回 塀を壊して駐車場をつくる!
逗子市小坪の日当たりの良い丘にある団地の一画に、可愛らしい平屋を購入したWご夫妻。
それまでは海の見える白亜のリゾートホテルのようなマンションにお住いでしたが、「どうしても一戸建ての夢をあきらめきれなくて」と奥さま。団地の中でありながら、地形の妙でこの家だけはひときわ高い擁壁の上に建っているのと、東側に道路・集合駐車場があるため、南東側がスカッと空いている開放感が大きな魅力です。
さてさて、そんなW邸の工事前の様子です。
昔の人は「開放的」な住まいを逆に敬遠したのでしょうか。古い家って、塀や生垣、密集した植木で周囲から見えないように囲んでありますよね。この平屋も、家の周囲にぐるっとブロック塀を巡らせてあり、駐車場がない状態でした。しかしW夫妻はこの塀と擁壁を一部壊して駐車場を新たに造成することにしました。
その工事費の見積もりを物件価格に足し合わせても、納得のいく金額だったため購入を決めたのです。
駐車場を造成中!
ブロック塀を取り除き、平屋の基礎と同じ高さまであった庭の一部を削って、前面道路と同じ高さにしました。その後、掘った土が周りから崩れてこないように、ブロックを積んでしっかりと固めていきます。
駐車場、完成~!!
地面もコンクリートできれいに造成されました。
玄関に続く階段ギリギリまで駐車場として造成したことで、車の出し入れもしやすそうですし、自転車などを停めるにもいいですね。
駐車場の造成が済んだ後に、弊社設計士とWご夫妻が真っ先に行ったのは、本当に車が入るかのチェック!
実はWご夫妻の車はがっしりした四駆でけっこう大型なんです。
もちろん予めサイズを測って造成しているので入るはずなんですが、車が大きいだけに心配されていたようです。現地でそろ~っと旦那さんが車をバックで入れている間、居合わせた全員の手に、汗が…!
無事に収まった瞬間、弊社設計士もホッと胸をなでおろしました。
世の中に数多ある物件の中で、一般的には価値が低いと見られる物件もあります。たとえばこのW邸のように駐車場がない場合。もうそれだけで最初から「NO」と決めつけてしまっていませんか?
でも、今回のように駐車場を造成しても予算にはまる、というケースもたくさんあります。バリューとコストのバランスを見て、賢く「買い!」の判断をしたWご夫妻はまさに成功と言えるでしょう。
さて一方で、平屋の方では解体が始まりました。
築年数は47年。ところがラッキーなことに、大変良い日当たりと風通しが幸いして、解体に入った大工さんも太鼓判を押すほど家の傷みが少なかったそうです。
Wご夫妻が思い描く、明るく開放感のある住まいを目指して、柱や梁だけを残し、家の内外の壁が一旦取り除かれます。
古家を解体するときに現れる、小屋裏の美しいこと。
これを見るたび、昔の日本の職人さんは豪邸だろうが小さな家だろうが、きっと手を抜かずに自分の仕事をきっちりやったんじゃないかなといつも思います。やるならきれいに、丁寧に仕上げるのが当たり前。見えないところでさえも。そんなことが無意識の前提となっている日本人の特質を誇らしく思い出す瞬間です。
次回は、解体された平屋にちょっと手を加えます。
第3回 すっかりスケルトン、そして新たな出発。
小坪の丘の陽だまり平屋W邸です。
道路から見上げたところ。
どうです?
なかなかに「お城」感ありますでしょ?
この高さのおかげで抜群の日当たり、風通し、そしてご近所さんといつも目が合う、なんてことがなくプライバシーが確保されているのが高ポイントです。
玄関側から見たところ。
すっかり壁が取り払われて、向こうの庭まで抜けきってますね!
まさにスケルトン。
覆いの中では大工さんたちがちょうど休憩中でした。
写真の左の、材が途中で切れている部分には窓が入ります。
開放的な感じにしたいというW夫妻のご希望から、南側の開口部は思い切り大きくとる予定。
そして奥の柱と柱の間からは、庭に向かって、あることがなされる計画です。お楽しみに!
こちらの角では、新しい材で筋交いが足されているのを発見!
ここは現場の大工さんが、経験による勘から補強のために足してくれた部分だそうです。
W邸は築47年の割に、恵まれた日当たりと通風から建物状態はすこぶる良好だったので、大々的な躯体補強はしなくて済みました。ここも実にラッキーだったポイントです。
中古戸建てのリノベーションでは物件の状況によって、目に見える仕上げの前の、躯体そのものの補強工事の度合いが変わってきます。一般的には古くなればなるほど修復の必要な箇所も増えますし、建物の立地や使われ方によっても傷みの度合いは変わってきます。
「開けてみるまで分からない」と中古戸建てのリノベーションではよく言われますが、弊社ではそのリスクをできるだけ軽減するために、購入前に中古住宅診断の専門家と同行して、購入の判断の材料となるような建物状態の調査と情報提供を行うサービスをご用意しています。
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そして、屋根に載っていた青い瓦は降ろされ、新しい屋根はガルバリウム鋼板で葺き直すことになりました。
グンと頭が軽くなり、躯体にかかる負担も一層軽減されます。
次回は天井に注目!
第4回 平屋の懐
逗子市小坪にある小高い丘の上の団地の一画でフルリノベーション中の平屋W邸。
いったんスケルトン状態(柱や梁などの骨組みだけを残して壁などは取り払った状態)まで解体された後、いよいよ新しい外壁や壁の施工が進んでいます。
脚立に乗った大工さんが作っているのは、新しくキッチンになる部分の壁。この材に板を張って、壁が出来上がるわけです。
一方、平屋の西側ではなにやら地面にコンクリートが打設されたようです。
ここは一体?
大きな露天風呂…ではなく、実は元の平屋にひと部屋を増築することにしたのです。
上から見ると「L」字型になる形で、一番西側に庭に張り出す形で新たに寝室となる部分をつくるのです。
庭に向いた方、つまり室内から見ると東側に大きな開口部を設け、朝日がたっぷり差し込む寝室になる予定。気持ち良さそう!
一部では断熱材も設置され始めました。
元の築47年の平屋には、当然ですが断熱材など入っていませんでした。夏は暑く、冬は寒い。そういう家です、古家とは。
でもせっかく直すなら、現代のライフスタイルに合った快適性にも優れた家へと改良するのは良いことです。冬の暖房はもちろんですが、夏の涼しさも保ってくれます。結果省エネ。壁までいじるフルリノベーションなら、後でやり直せないこういう部分にこそ力点を置きたいものですね。
南側の庭に面した方には、大きなサッシも取り付けられました。
窓のサイズは高さ2.2m。現代規格の住宅でも、天井近くまで窓がある「フルハイト」という大きなサッシです。当然ながらもとの平屋には収まるはずもないのですが、ここで天井にご注目!
梁が剥き出しになっているそのさらに上に、新しい天井が張られています。天井を一度抜いて、高さを上げたのです。
「実は平屋って、天井裏の懐が深いんですよ。2階建てなどと比べて。それは初めにこの家を外から見たときに、屋根の感じからなんとなく分かったんですね。Wご夫妻も開放感のある室内にしたいと希望されていたので、天井は思い切り上げようと。今回、高いところでは1.5m位上げましたね」
と弊社設計士。
その結果、フルハイトの大開口部も設置出来たんですね~。
そして、天井を高くしたことによって、東側の外壁の上部にも新たな余白が生まれました。ここでは奥様がアイデアを。
「せっかく天井が高くなったので、この部分を全部壁にして塞いでしまうのはもったいないなぁと思ったんです。なので窓をつけて抜け感を出してもらうことにしました」
高い位置に開けた窓から光が入って、より室内も広く明るく感じます。
ちなみにこの空間は広いLDKとして区切らずに仕上げる予定です。
だんだんと家の姿が現れ始めたW邸。
次回はそろそろ仕上げの施工へと入っていきます!
第5回 木張りの天井、グレイ目地の白タイル!
夏草も茂り始めた小坪の丘から、陽だまり平屋W邸の遠景です。
新しい屋根も葺き終わり、増築した寝室部分の外壁には木が張られているのが見えます。
その寝室の内部も内壁が張られて部屋らしくなってきました。
天井にご注目!
木張りの天井です。
うーん大人っぽいですねぇ。木の天井はミッドセンチュリーのカリフォルニア建築などでもよく見かけますが、やはり部屋全体に落ち着きをや上質さを与えてくれますし、合わせる壁の色や家具の雰囲気も選ばないところが魅力です。
こちらはキッチンの造作の様子。
シンクに向かってちょうど背面にあたる位置に、吊り戸棚を設置しようとしています。
今はまだ”素”の状態。これからどんな風に色づけされ仕上がっていくのか楽しみですね!
こちらはバスルーム。
タイルが貼られ始めました!
白い長方形のタイルを馬張り(レンガを積むように互い違いにする張り方)で、目地はグレイ。とてもシックな、海外のバスルームのような雰囲気になっています。目地の色って実はとても重要。白目地でカラーをきれいに明るく見せることもできるし、このようにダークな目地で全体を引き締めることもできます。組み合わせでこんなに印象が変わるなら、選びがいもあるというものですね。
東側の外壁の窓も出来上がりました。
なんだか軽井沢あたりのモダンなカテドラルのようです。
手前に見えている2本の柱は、元の躯体の柱ですが、周囲を板で覆って塗装することにしました。
奥様いわく、天井の梁を味わいのある木のまま露出させたので、柱は逆にスッキリとさせたいそうです。このバランス感覚、目が肥えているというか、今までにインプットされた美的な経験値が豊かなんですねぇ。
さて、いよいよ次回は壁の塗装に入ります!
第6回 【最終回】絵画のような壁
完成後の様子をプロカメラマンの美しい写真でご覧ください。(Photo by 東涌宏和)
*WORKS 12「平屋+1のリノベーション」/エンジョイワークス一級建築士事務所 リノベーション事例
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写真は教会にフレスコ画を描く聖フランチェスコ…
ではなく、鎌倉のアトリエを拠点に活躍する色彩とペイントの職人集団「COAT」山口さんです。
*COAT KAMAKURA
小坪の丘の上にあった築47年の平屋をフルリノベーション中のW邸。
工事はいよいよ佳境に差し掛かり、壁の塗装が始まりました。
今回W夫妻が塗装をお願いしたCOATさんは、施主の望むイメージに合わせて独自に塗料を混ぜ合わせ、世界に一つだけの絶妙な色を作ってくれます。
調色だけでなく塗り方も特別。
こちらの壁をよく見てください。
一見薄いグレイに塗られているようですが、壁から配線が飛び出している辺りを見ると、なんだか白くモヤモヤと、雲のような色むらが。
これは細かいガラスの粒が入った特殊な塗料を用いて、山口さんがわざと模様を描くように塗ったもの。光の反射でほんのりと輝きます。この部分以外のグレイの面も、よく見るとなんとなく不均一に塗られているようです。こんな風に、COATさんが塗る壁は、まるでそこが絵画の背景のように仕上がるのです。今までの壁の概念を覆すように、何か訴えかけてくるような、アートに近い壁。それが一部にあるだけで部屋全体の空気が変わり、とても垢抜けた感じになります。
この配線には、実は壁付けの照明が付くことになっているんです。それもセルジュ・ムーユの黒!はまりすぎです。
その照明が点灯した時、この壁がいったいどんな表情を見せるのでしょうか。
一方、木張りの天井の寝室は、壁を薄いブルーで仕上げました。
見ているだけで心が静まりますね。
ゆったりと落ち着いて、深く眠れそう。
木の家具や、黒、メタリックな質感のアクセントも似合いますね。
ベッド脇の照明にはヤコブセンがコペンハーゲンのロイヤルホテルのためにデザインしたというクールなランプが設置される予定です!
バスルームはタイルも無事に貼り終わり、黒い枠のガラスも設置されました。
洗面台から一続きになって抜け感がありますし、海外のバスルームみたいでおしゃれ!
高い位置に開けた窓からの光もきれいです。
だんだんとそのおしゃれ上級者ぶりが現れてきたW邸。
平屋や古家リノベーションのこんな方向性もあったのか!ときっと刺激になるはずです。
完成内覧会は8/6(土)7(日)に開催決定!
最近ロンハーマンができたりしてムードが変わり、人気急上昇中の小坪の町を探索しがてら、ぜひ見にいらしてください。
*内覧会の詳細&お申し込みはコチラ