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食を通じて、笑顔をつくる仕事
鎌倉 御代川 鎌倉市由比ガ浜2-22-5若宮大路を滑川交差点に向かって右側に見える、どっしりとした店構えの「御代川」。鎌倉市民にとっては、お祝いの席などで足を運ぶことが多い馴染みのある老舗だろう。
創業者である御代川鯉之助さんは、昭和初期、赤坂で人気の料亭を多数経営し、料理界では五本の指に入る「煮物の神様」と呼ばれていた。
店を切り盛りしていた女将である奥さまが体調を崩されたことで、大きな決断を下すことになる。
家族の健康を気遣い、環境の穏やかな地へ。そして、その後、跡を継ぐことになる息子総一郎さんが「これからの時代は飲食店が郊外のロードサイドで高収益を図ることができる」という時流を読んだ判断もあり、鎌倉に拠点を移した。今では、鎌倉における人気店の地位を確立し、海外からのゲストにも愛されている。
今回、お話を伺ったのは、代表を務める御代川幸枝さん。鯉之助さんの孫であり、先代 総一郎さんを父に持つ三代目だ。大学で経営学を学び、卒業後、すぐ家業に入った当初は「自分が継ぐということは一切考えていなかった」と語る彼女が、今では「一番大切なことは従業員のみんなの幸せである」という考えに至り、「経営者」として店を背負うまでに、どんな道をたどってきたのか。そして、新しい時代にどのような未来を思い描いているのだろうか。
大きな「リスペクト」故の葛藤
「父から2018年にバトンを引き継いだ時には、会社をより大きくし、収益に集中するためには、単価を上げることが大事であると考えていました。そして、祖父の時代のような『料亭としてのリブランディング』をする必要があると感じていました」。幸枝さんが家業に想いを巡らせて、「これから」を考える中で、鯉之助さんへのリスペクトを強く持っていたのでした。その一方で、従業員の多くは幸枝さんとは異なる考えを持っていたと言います。
周囲は幸枝さんが現場に入る前から、長く働いている従業員ばかり。各々が、「御代川に訪れる方が何を求めて足を運んでいるのか」を身体で感じていたのです。馴染みのあるお客さんは、心づくしの料理だけでなく、親族など大勢で集まる際に、「小さな子どもから高齢の方まで一緒に楽しめる『場』を求めていることを過去の経験から学んでいました」。これまで通り、そうした要望に応え続けていく。従業員たちは御代川にはそれが大切なのだと考えていたようです。
「従業員とともに汗水を流しながら、お客さんと向き合っていく中で、シンプルに従業員が心からの笑顔で働ける環境であることが大切だと感じたのです。私の想い、経営への考えも大事ではありますが、それ以上に従業員ファーストでいたい。それまで築いた幅広い世代の方に楽しんでいただけるサービスを継続していくことで、『どの世代にも長い間愛される店にしたい』と思いが固まりました」
従業員が笑顔で過ごせる場にしていきたいという想いは、今では、店だけには留まらず、地域にもその輪が広がっている。
地域、そして、未来を見据えて
「食を通じて多くの人を幸せにする、それがモットーであり、御代川で働く全員が共有しているキーワードです」。働く者の笑顔を一番に考える。そして、それを広げることで「幸せの循環」が次第に大きくなっていくとの想いから、地域の子どもへの食育、海の恵みへの感謝の気持ちを込めて月に1回、有志のメンバーでビーチクリーンを行っている。
「店で出している出汁は、昆布と鰹節で取っています。この文化をこれからも続けるために、海の環境をもっと真剣に考えなければいけません。私たちに出来ることは数少ないかもしれませんが、少しでも環境の保全につながるよう、環境に意識を向けてもらえるよう有志のメンバーでビーチクリーンを行っています」。自身も小学3年生の息子の母。少しでも和食の文化に触れる機会をつくりたいと考え、店舖の厨房で実際に出汁をとる食育の活動にも乗り出している。
「家庭で『出汁を取る』ことも少なくなっているようで、ここで初めて、昆布や鰹節に触れるという子どもが少なくないです。御代川が大切にしていることを通して、食に興味を持って、ゆくゆくは、この伝統を引き継ぎたいと思ってもらうきっかけになれば良いですね。目をキラキラさせている子どもたちの笑顔をみると、私たちも自然とにっこりしてしまいます」
その仕事が、誰かの笑顔をつくる
「『大変だったけれど、今日も楽しかったな』と思いながら家路に着く。そんな風に仕事をしてほしいです。働く意義は、それぞれにあると思います。お孫さんにお小遣いあげるためだとか、自分の調理の腕をあげるためとか。それは人それぞれで良いと思います。私のいちばん大きな仕事は、ここで働く人全員が笑顔でいられる環境を作っておくことです」
今回、お話を伺う中で、何度も笑顔という言葉を聞く機会があった。それは、お客さんを相手にする場だけでなく、どんな仕事でも実はとても大切なものかもしれない。
「調理室からお客さんの顔を見ることはできませんが、『見えない誰か』の笑顔を想像しながら仕事をしてもらいたい。コロナ禍もあり、当店を含めて飲食業界はとても厳しい状況が続きました。そんな中でも様々な人の支えや繁がりに救われて、何とか店を存続させることができました。『食を通じて人を幸せにする』ことを第一に、従業員とともに笑顔を絶やさず、これからもこの店をみんなで守っていきたいです」
――なんてことのない作業が まわり回って 今 僕の目の前の人の笑い顔を作ってゆく そんな確かな生き甲斐が 日常に彩りを加える モノクロの僕の毎日に 頬が染まる 温かなピンク 増やしていく きれいな彩り――(Mr.Children「彩り」)
以前、僕の背中を押してくれた歌を思い出した。
誰かの笑顔を作り、それが自分を笑顔にする。食の仕事は、多くの人を幸せにしているのだ。様々な想いを持ち、多世代の方と働くなかで、自分が笑顔で働ける意義もみえてくるのだろう。
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取材・執筆 :木村 歩
求人詳細データ
- 求人ID:
- 0048
- 職種 :
- 飲食業
- 仕事内容 :
- 調理人、営業、店内接客、フロント業務、ケータリングスタッフ、ドライバー、 調理補助、洗い場等
- 勤務地 :
- 鎌倉御代川 由比ガ浜本店
- 勤務時間 :
- 要相談
- 休暇・休日 :
- 要相談
- 給与・待遇 :
- 給与に関しては要相談
要相談 - 交通費 :
- 実費支給(上限有)
- 有給休暇 :
- 有
- 会社名・店名 :
- 鎌倉 御代川
- 備考 :
- 必要な経験、知識、技能等 不問